SaaS企業の評価方法
寄稿者
SaaS Hackers
Software as a Service(SaaS)企業の評価は、独自のビジネスモデルと収益構造のために複雑になりがちです。このガイドでは、SaaS企業の評価に関わるさまざまな要素、手法、実際の事例を解説します。
SaaS企業を評価するための主要指標
1. 年間経常収益(ARR)
ARRはSaaS企業にとって重要な指標で、毎年安定的に見込める継続的な収益を表します。
- 計算式:ARR = 月次経常収益(MRR)× 12
- 重要性:企業が長期にわたって安定した収益を生み出せるかどうかを示します。
2. 顧客生涯価値(CLV)
CLVは、1つの顧客アカウントとの取引期間全体を通じて、企業が妥当に期待できる総収益を見積もったものです。
- 計算式:CLV = ユーザー1人あたりの平均収益(ARPU)× 粗利益率 × 平均顧客継続期間
- 重要性:顧客1社ごとの長期的な価値を把握するのに役立ちます。
3. 顧客獲得コスト(CAC)
CACは、マーケティングや営業の費用を含め、新規顧客を獲得するためにかかるコストを測る指標です。
- 計算式:CAC = 営業・マーケティング費用の合計 / 新規獲得顧客数
- 重要性:企業の成長戦略がどれだけ効率的かを知る手がかりになります。
4. 解約率(チャーンレート)
解約率とは、一定期間内にサブスクリプションを解約した顧客の割合です。
- 計算式:解約率 = (期間中に失った顧客数 / 期間開始時の顧客総数)× 100
- 重要性:解約率が高いと、収益の成長に大きな影響を及ぼす可能性があります。
5. 粗利益率
粗利益率は、売上原価(COGS)を差し引いた後のSaaS事業の収益性を測る指標です。
- 計算式:粗利益率 = (売上 - COGS)/ 売上
- 重要性:粗利益率が高いほど、収益性と運営効率が優れていることを示します。
6. 売上維持率(NRR)
NRRは、アップセルなどの拡大、ダウングレード、解約を含め、特定期間に既存顧客から維持できた経常収益の割合を測る指標です。
- 計算式:NRR = (期首ARR + 拡大ARR - 解約ARR)/ 期首ARR
- 重要性:NRRが高いことは、顧客満足度が高く、アップセルの可能性があることを示します。
評価手法
1. 類似企業比較分析(CCA)
CCAでは、対象のSaaS企業を、類似する上場企業と比較します。
- プロセス:比較可能な企業を選び、関連する指標(例:EV/売上高)を決め、その倍率を対象企業の指標に当てはめます。
- 例:Salesforce(CRM)をはじめとする上場SaaS企業が、ベンチマークとして使われることが多くあります。
2. 類似取引分析(PTA)
PTAでは、類似企業の過去のM&A取引を分析し、評価倍率を求めます。
- プロセス:類似の取引を特定し、評価倍率(例:EV/ARR)を算出して、その倍率を対象企業に当てはめます。
- 例:SalesforceによるSlackの買収。買収額は277億ドルで、先行き売上高の約24倍でした。
3. 割引キャッシュフロー(DCF)分析
DCFは、将来のキャッシュフローの予測値を現在価値に割り引いて、企業価値を算出する手法です。
- プロセス:将来のキャッシュフローを予測し、割引率(WACC)を決めて、現在価値を計算します。
- 例:キャッシュフローが予測しやすい、成熟したSaaS企業に使われることが多い手法です。
4. 売上高倍率
売上高倍率は、とくに初期段階のSaaS企業で最もよく使われる評価手法です。
- 計算式:企業価値 = 売上高 × 売上高倍率
- 要因:業界の慣行、成長率、収益性、市場環境が倍率に影響します。
- 例:ZoomのIPO時の評価額は売上高の約50倍で、高い成長率と市場の将来性を反映していました。
実際の事例
1. SalesforceによるSlackの買収
2020年12月、Salesforceは277億ドルでSlackを買収しました。当時のSlackのARRは約9億ドルで、評価倍率はARRの約30倍に相当します。

2. ZoomのIPO
Zoomは2019年4月に、評価額92億ドルで上場しました。前年の売上高は3億3,000万ドルと報告されており、評価倍率は売上高の約28倍でした。これは同社の急成長と高い市場需要を表しています。

3. MicrosoftによるLinkedInの買収
Microsoftは2016年に262億ドルでLinkedInを買収しました。当時のLinkedInの売上高は約30億ドルで、評価倍率は売上高の約8.7倍でした。ZoomやSlackと比べてこの倍率が低いのは、LinkedInがより成熟した成長段階にあったためです。

SaaS企業の評価には、主要指標の理解、さまざまな評価手法の適用、実際の事例との比較を組み合わせることが欠かせません。これらの要素を総合的に分析することで、投資家や関係者はSaaS事業の価値について、十分な根拠に基づいた判断ができます。
寄稿者
SaaS Hackers


