ニッチなB2B SaaS企業が、小規模な伴走型エージェンシーで成果を上げる理由
寄稿者
SaaS Hackers
ニッチなB2B SaaS企業やテクノロジー企業の顧客は、少人数で専門性の高い購買グループです。こうした市場では、汎用的なマーケティングは響きません。小規模な伴走型の専門エージェンシーは、プロダクトと購買担当者を深く理解したうえで、社内チームの一員としてデマンドジェネレーションを運用します。離れた場所から対応する従来型のエージェンシーや、物量頼みのアウトバウンドに勝る手法です。どちらもニッチ市場にはない規模を前提にしているためです。
ニッチなソフトウェア企業には、合わないモデルが売り込まれがちです。たとえば治験物流や産業用設備モニタリングのバーティカルプラットフォームなら、世界中の実際の購買担当者は400人程度かもしれません。その多くは技術者で、慎重な姿勢をとっています。そこへ、40万人の購買担当者がいる市場向けに設計されたコンテンツカレンダーや有料広告プログラムを提案するエージェンシーが現れます。あるいは、受け止めきれない規模のTAM(獲得可能な最大市場規模)に向けて、月1万通のメール送信を提案するアウトバウンド事業者もいます。本稿では、ニッチなカテゴリでは小規模な伴走型の専門チームのほうが良い成果を出しやすい理由と、他の選択肢が今も有効な場面を整理します。
伴走型の専門エージェンシーとは?
伴走型の専門エージェンシーとは、多数のクライアントの一社として御社に対応するのではなく、社内機能の延長として御社の内部に入り込んで働く小規模な外部チームです。違いは運用体制にあります。共有のSlack、プロダクトチームや営業との定例ミーティング、顧客との会話への直接のアクセス、そして同じメンバーが担当を外れることなく数か月かけてカテゴリを学べる継続性です。
これを可能にするのは規模の小ささです。5人から10人のチームなら、最初の1か月を使って導入が実際に何を伴うのかを学ぶ余裕があります。80アカウントを抱えるエージェンシーにはそれができません。そのモデルの収益構造は、再現性のあるプレイブックを素早く適用することに依存しているからです。
ニッチなB2B SaaS企業が従来型のエージェンシーで苦戦するのはなぜ?
従来型のエージェンシーは再現性を前提に作られていますが、ニッチなカテゴリでは再現性が裏目に出ます。そのビジネスモデルは、実績のあるプロセスを多くのクライアントに適用することで成り立っています。実務はテンプレートどおりに動く若手スタッフが担い、シニアの人材が登場するのは提案の場と四半期ごとのレビューだけです。
専門性の高いカテゴリでは、これが次の3つの失敗を招きます。
- 誰からも信頼されないコンテンツになる。その分野の知見がないライターが書くと、無難に読めても、購買担当者がすでに知っていることしか書かれていない内容になります。専門家が相手の市場では、汎用的なコンテンツは沈黙よりも悪い結果になります。課題を理解していないと示してしまうからです。
- 存在しない検索ボリュームを追いかけてしまう。標準的なリサーチでは、周辺のボリュームが大きい用語は見つかりますが、実際の購買担当者が検索する20ほどの低ボリュームのフレーズを見逃します。ニッチなカテゴリのパイプラインは、検索ボリュームが小さく、意図が非常に強いキーワードから生まれます。
- 学びが蓄積されない。担当チームが入れ替わるたびに知見が失われ、9か月目も2か月目とあまり変わりません。その間に、伴走型のチームを持つ競合は、購買担当者の理解を9か月分深めています。
だからといって、従来型のエージェンシーが仕事の質で劣るわけではありません。規模が効くカテゴリで大規模に実行するという、本来の体制に合った仕事は得意です。
ニッチなカテゴリでは純粋なアウトバウンドだけでは不十分な理由
物量型のアウトバウンドは算数で成り立っています。十分な数の相手に連絡すれば、返信率が低くても計算上は商談が生まれます。しかしニッチな市場ではこの算数が成り立ちません。連絡できる「十分な数」の相手がいないからです。
TAMが600アカウントなら、各購買グループに対して信頼できるアプローチができるのはおよそ1回です。ワークフローを理解していない人が書いたシーケンスでそのリストを使い切るのは、レポートには表れない形で高くつきます。リストは元に戻りません。そのアカウントは、的外れだったメッセージとともに御社のブランドを記憶することになります。
シグナルを起点にしたアウトバウンドは別物で、実際に機能します。ただし、その市場でどのトリガーが意味を持つのかを見極める、ドメイン知識に基づく判断が欠かせません。ある分野では資金調達が重要でしょう。別の分野では、品質管理責任者の着任、規制の期限、工場の拡張が重要かもしれません。どれが重要かを知っていることこそが専門知識であり、テンプレートには任せられない部分です。この連携の進め方については、B2B SaaSのデマンドジェネレーションのガイドで解説しています。
専門性の高い市場で小規模な伴走型チームが成果を上げる理由
ニッチなカテゴリで伴走型チームが勝つのは、制約になっているのがアウトプットの量ではなく、ドメインへの理解だからです。そこから次の4点が導かれます。
プロダクトを深く学ぶ余裕がある
小規模なチームなら、何かを公開する前の2週間を、営業の商談への同席、導入メモの読み込み、顧客へのインタビューに充てられます。大規模な体制ではこの投資は難しい一方、専門性の高い市場では決定的な差になります。購買担当者が同僚に転送したくなるコンテンツになるか、読んで閉じられるコンテンツになるかの違いです。
1人のペルソナではなく、購買グループ全体に働きかける
ニッチで技術的な購買には、予算の決裁者、技術面の評価者、実際にプロダクトを使い続ける運用の責任者が関わります。伴走型チームは営業プロセスを十分に把握しているため、この3者すべてに働きかけられます。大規模な市場でのアカウントベースドマーケティングと同じ連携の考え方を、はるかに小さな規模で適用するものです。
シニアの人材が実際に手を動かす
小規模なエージェンシーでは、1週目に御社のカテゴリを理解した人が、6か月目にコピーを書いています。引き継ぎによる損失もなく、四半期ごとに新しい営業担当者へプロダクトを説明し直す必要もありません。
チャネル指標ではなく、パイプラインを最適化する
ターゲットアカウントが数百社なら、トラフィックやインプレッションはほとんど意味を持ちません。伴走型チームがアカウントのエンゲージメントとパイプラインで報告する傾向があるのは、その市場規模で精査に耐えられる数字がそれだけだからです。
実際の運用イメージ
SaaS Hackersを運営するエージェンシーのTeam 4を例に挙げます。そのモデルは、少人数のシニアチームが伴走型のB2B SaaSデマンドジェネレーションエージェンシーとして働くものです。シグナルを起点にしたアカウントリスト、有料ソーシャル、アウトバウンドを一つにつながった施策として、外部から報告するのではなく、クライアント自身の業務リズムの中で運用します。
このような働き方をうたうエージェンシーを見極める実践的なテストは単純です。6か月目にコンテンツを書くのは誰か、名前で尋ねてください。その人が他に何社のクライアントを担当しているかを尋ねてください。何かを公開する前の最初の3週間で何をするのかも尋ねてください。この3つの質問への答えが曖昧なら、そのモデルは伴走型という言葉を被せただけの、規模重視の納品体制です。
従来型のエージェンシーやアウトバウンドのほうが適している場合
伴走型の専門家がどこでも最適というわけではなく、そう言い切るのは誠実ではありません。
市場が本当に大きく水平型の場合、たとえばプロジェクト管理ツールや経費精算プロダクトのように、従業員のいるあらゆる企業に販売するなら、物量が効き、規模型のエージェンシーはそのために作られています。Webサイトのリニューアルやテクニカルな SEO の修正など、範囲が明確で独立したプロジェクトが必要な場合も、大手エージェンシーからスコープを決めて納品を購入するほうが、通常は伴走型にするより安く、早く済みます。
物量型のアウトバウンドも、TAMが繰り返しのアプローチを吸収できるほど大きく、オファーが3文で伝わるほど単純な場合には有効です。また、伴走型モデルには実際のリスクもあります。特定の人物への依存、急な増員への対応力の限界、不在時にカバーする控えの人員がいないことです。御社のプロダクト知識を2人が握っている3人チームは、リスクが実際に集中している状態です。この点は、得られるメリットと照らして率直に検討する価値があります。モデルの選択で迷っている場合は、両者を分ける質問をまとめたSaaSエージェンシーの選び方ガイドをご覧ください。
伴走型の専門エージェンシーはどう選ぶ?
重要なのは、見せ方ではなく体制そのものを示すシグナルです。
- シニア1人あたりのクライアント数。直接尋ねてください。4、5社を超えるなら、伴走型が実態を伴っている可能性は低いでしょう。
- 担当者の継続性。提案の場にいた人が実際に納品を担当し、1年後も同じ案件に携わっているべきです。
- カテゴリを学んだ証拠。似たクライアントとの最初の1か月で、何を間違えたかを尋ねてください。ここで有益な答えが返ってくるかどうかが、実務家と営業担当者を分けます。
- パイプラインでの報告。600アカウントの市場なのに、提案されたレポートがトラフィックとインプレッションを中心にしているなら、そのモデルは御社の市場規模に適応していません。
- 断る姿勢。あらゆる依頼を受ける専門チームは、専門チームではありません。
SaaS Hackersの専門家一覧では、スタートアップのB2B SaaS企業と協働する小規模なエージェンシーも含め、専門分野と注力市場ごとに事業者を比較できます。
よくある質問
Q: 伴走型のマーケティングエージェンシーとは?A: 伴走型のマーケティングエージェンシーとは、社内のマーケティング機能の延長として、企業の内部に入り込んで働く小規模な外部チームです。多数のアカウントの一つとして対応するのではなく、コミュニケーションチャネルを共有し、社内ミーティングにも参加し、同じメンバーが長期にわたって担当し続けます。
Q: ニッチなB2B SaaS企業に専門エージェンシーが必要なのはなぜ?A: ニッチなB2B SaaS企業の顧客は、汎用的なマーケティングをすぐに見抜く、少人数の専門性の高い購買担当者です。専門エージェンシーは、プロダクトと購買プロセスを十分に理解しているため、信頼できる内容を制作できます。また、小さな市場でパイプラインを生む、低ボリュームかつ意図の強い検索キーワードやシグナルを狙えます。
Q:組み込み型(エンベデッド)のエージェンシーは、従来型のエージェンシーより費用がかかりますか?A:月額費用は同程度か、より高くなることが多いです。シニアレベルの担当者が実務を担い、抱えるクライアント数も少ないためです。重要なのは、小規模な市場における商談1件あたりのコストで比較することです。狙いを外したキャンペーンは、二度とアプローチできない限られたアカウントリストを無駄にしてしまいます。
Q: ニッチなB2B SaaS企業でもアウトバウンドは機能しますか?A: はい、ただし大量に送る形では機能しません。ターゲットアカウントが数百社程度であれば、アウトバウンドはシグナルに基づき、事前にリサーチを行ったうえで、そのカテゴリーで実際に意味を持つトリガーを使って進める必要があります。小さな市場に汎用的なシーケンスを大量に送っても、リストを使い果たすだけで、パイプラインは生まれません。
寄稿者
SaaS Hackers


